去る10月8日、同志・光田健一(敬称略)の「ソロデビュー25+2年」および「職業音楽家生活35+2年」記念公演に行ってきた。
随分昔の話になるが、記憶だと「夢の丘」をリリースし、KENSOにしてはハイペースで数回のライブを行い(大阪でも演奏した)、CD「LIVE92」としてリリースされることになる六本木ピットインでのライブを終えて、色々な理由からKENSOの活動を一時休止していた頃だったのではないか、光田健一から「空が好きだった君に」というCDが送られてきた。
1990年に光田健一が加入する前、佐橋俊彦くんは光田のことを“ジャズ健”と呼んでいたし、私にとっても、光田イコール卓抜したキーボード奏者であり短時間で「謎めいた森より」を作ってきた才能溢れる作曲家のイメージしかなかった。
なぜ光田健一は歌うのか。
ずいぶん前から折に触れて彼のライブを拝見してきた私は、今回のライブで一段とその答に近づけた気がする。
それは「伝えたい」「楽しませたい」という強い意志ではないかと思う。
クラシック、ジャズ、ポピュラーミュージックを縦横無尽に行き来できる類い稀なる資質を生かして。
それにしても、彼自身が「これだけのメンバーを呼ぶには
1000人くらいお客様が入らないと採算はとれないんです(大意・文責清水)」とMCで言っていたが、
なんと豪華なメンバーだろう。しかも14人!(+光田)
配布されたパンフレットでメンバーの略歴を見ると、皆さん、ははーっ!となるような燦然と輝く経歴の持ち主。
さすがに今は無くなったが、若い頃の私だったら“正規の音楽教育を受けてないコンプレックス”が頭を擡げてきたことだろう。
ゲストの水谷さん(ヴァイオリンの音色が美しかった!)を交えての第一部。
私が知っている限りの光田のフェイバリット・ミュージック(例えばエンニオ・モリコーネとかブラジリアン・フュージョンとか)からの影響を楽しみながら、彼の歩んできた道を振り返ることができた感じがする。
水谷さんもMCで話していたが、光田のアレンジは実に流麗。
しかし、その甘美さに酔いしれていると突如、「おおっ?こうきたか」という意外な展開がある。
演奏者からすると“落とし穴”と言えるのだろう。
第一部のクライマックスはこれを読んでいるKENSOファンにもお馴染み「Echi dal Foro Romano」。
ステージ後方のスクリーンに Foro Romanoの映像が映し出され、スペシャルアレンジが施された室内楽+男声合唱バージョンだ。
半田美和子さんがKENSOにボーカルとして加わった2014年版の時にも感じたが、馴染みのない旋律が加わることで、演奏し慣れたこの名曲が新たな光を放ちながら私の前に屹立する。
そして、予想もしていなかった箇所で力強い男声合唱が響き渡った時、身体中がゾクゾクするような感動に襲われた。
まさに、古代ローマから男たちの声が響いてきたような錯覚を覚えた。
( この曲に関しては、本拙文の後半で秘蔵エピソードをご紹介する)
第二部はザ・ハモーレ・エ・カンターレ、通称 ハモカンというアカペラユニットによる主としてクラシックの名曲メドレー、名付けて「ザ・ハモカンのテーマ全集」。
それはまさかの「ハモカン」の四文字を歌詞とした、、、、う~~ん、言葉ではうまく解説できないなあ。
本コンサートは年末に配信される予定なので、それを観ていただきたい。
例えばベートーベンの「運命」のジャジャジャジャーンは「ハモモカーン」。
まあとにかくここまでやるかの大エンターテインメント。
「ツゥラトゥストラはかく語りき」ヴィバルディの「四季」、前述「運命」、「カルメン序曲」、、、、、、etc。
名曲へのリスペクトに溢れ、ハモカンのユーモアのセンスが生かされた楽しくて実は高度なショーであった。
第三部は、時に爽やかに、時に切なく、時に温かく聴衆を包み込む素晴らしい室内楽団をバックにした「歌う光田」。
彼のメッセージは、思春期に詩作を日々の糧にしていた私にとっては些か直截的に聞こえたが、横溢する想いを音楽にのせてオーディエンスに伝えるにはこれが彼の方法なのだろうと思う。
光田にとっての歌詞観、萩原朔太郎やプログレの影響を受けた私の歌詞観、
出自の違いは当然あるだろうし、何より、この曲、この歌詞、この歌唱に励まされ、癒されているファンがいるという事実がある。
職業作編曲家として多忙な日々を送り、もしかしたら「あ~あ、気が乗らないなあ」という仕事もあるだろう中で、これだけしっかりと自分だけの音楽を作ろうとする純粋な情熱を持ち続けることは稀有なことだろうと感じた。
こんな素晴らしいミュージシャンと長年一緒に音楽を作ってこられた私は、本当に幸せ者である。
ロビーに飾られていた岡島由紀子さんの「はさみ切り絵」も光田の音楽と呼応しあっている気がして、とても良かった。
KENSOファンも、ぜひ年末の配信でKENSO以外の光田健一に触れて欲しいと思う。
この原稿を書いていたら、四半世紀以上前に彼から言われた
「僕だって、清水さんと同じで感情が昂ぶらないと良い曲は書けませんよ」
という言葉を思い出した。
そうか、光田と私を繋いでいた一番太いロープはエモーションであったのか。
最後に「Echi dal Foro Romano」という曲名について記憶をたどることにする。
2001年、彼がくれた譜面の曲名欄には「Foro Romano」と書かれれていた。
素晴らしい曲であることは既に分かっていたので、もうちょっとイマジネーションを掻き立てる曲名にしない?と
提案した。
そして、光田とあれこれ案をだして「フォロ・ロマーノからの残響」って良いんじゃね?となった。
それを何語にしようかね、という流れで語学堪能な上田達郎氏の力を借りた。
(因みに、この曲が収められた「天鵞絨症綺譚」のブックレットに掲載された「天鵞絨症」ついての私の解説をラテン語に訳してくれたのも上田氏だ)
正確を期すため上田氏に尋ねてみた。
「懐かしい件ですね、たしかに初めは”Foro Romano”だったのをご記憶の通りの経緯で”Echi dal Foro Romano”にしたんでしたね。
イタリア語タイトルは私がイタリア人の友達に相談してそのようにしました。
ちなみに初めは私が"Echo del Foro Romano”と書いたのでしたが、その友人がそれだと「その中の残響」というニュアンスとなり、また聞こえる音は一つだけではないはずなので複数形にした方が良いとの意見で、その結果"Echi dal Foro Romano"(フォロ・ロマノから聞こえてくるいくつもの残響音)という形になったものです。」
だそうですよ、皆さん、KENSOって何てディープなバンドなんでしょうね!
<お知らせ:光田健一配信スケジュール>
光田健一 / 3つのシンフォニカ♪
Solo Debut《25+2》周年記念
職業音楽家生活《35+2》周年記念公演
期間:■2022年12月26日(月)19:00〜12月31日(土)23:59
配信:イープラス