●Progressive Jamとアイヌ探訪の旅 |
先日、私のクリニックとの繋がりが37年くらいになる女性患者さんから
「先生、幾つになったの?」
と問われた。
「もう還暦も6年過ぎ、66歳になりました」と応えると、
「あらっ、そうなの?じゃ、私とそんなに変わらないんだ~」
手元のカルテを見る、、、、72歳、、、、、
(そうか、この人にとっては66歳と72歳は同じようなものなんだ)
そう、私は66歳。
おかげさまで、相変わらず毎日やることがいっぱいで超忙しい。
振り返って見ると私の人生には
「暇だ~~。今日、何しよう」とか
「何か、別の趣味を持とうかな」などというシーンは皆無であった。
買ったまま読んでいない本や聞いてない或いは一回くらいしか聞いていないCDが、自室に山積みになっている。
果たして、これらを味わい尽くす日がくるのだろうか。
歯科医院を閉めたら来るのかな?
さて、5月くらいから私の人生を更に忙しくしているのは、
来たる8月12日に吉祥寺シルバーエレファントで開かれる永井敏己さん主宰のProgressive Jamだ。
3月くらいに永井さんから
「今年の夏はKENSOのレコーディングがあるから、、、と清水さん
言ってたけど、もし可能だったらやりませんか??」
という甘いお誘い。
私、覚醒剤はもちろんやったことないけれど、
体験者がよく発言しているのは
「刑務所から出てきて少しすると、何かの隙をみて“ちょっとだけやってみない?”と売人が接触してくるんです。
で、小さな本当にキャラメル一粒くらいの紙片を手に握らせる。
その包装紙の中に、、、入っているんです」
「で、気になって気になって、結局、“ちょっとならいいか”ってその包装を解いて、ちょびっと舐めてしまう、、、それでまた
逆戻りですわ」というようなこと。
まさに“麻薬的な誘い”。
脳の一部に根強く残る快感体験。
永井さんからの誘いはそれに近いものだった。
「ただでさえ多忙な毎日、そこにKENSOのレコーディングも入ってくる予定。
その上にProgressive Jamなんて無理だろう。どっちつかずになるのは分かり切っているはず。
「もう体力もないんだから」という冷静な心の声は、、、
「でもなあ、あれ楽しいんだよな~。耳コピーとかすげえ大変だけど、譜面ができたらちょっとした達成感もあるし、そんなことより何より自分が大好きだった曲、自分に多大な影響を与えてくれた曲を、あの名手たちと演奏するのはエキサイティングだし、何しろ楽しいんだよな~」という快感体験を思い出させる脳からの声に、いとも簡単に打ち消されるのだった。
というわけで、このメンバーで連続4回目のProgressive Jam、私にとってはもはやバンドです。
今回も、曲つくりの上でもギタープレイの上でも大きく影響を受けた曲ばかりです。
特に私が今回「やりたい」と提案した新ネタのギターソロは、笑っちゃうくらい初期KENSOの私です。
是非是非、ご来場ください(あれ?もう来場分はソールドアウトなのかな?、それはシルエレに問い合わせてください)
遠方の方は、もちろん配信でお楽しみください。
次にKENSOの配信について。
キングレコードの担当者が配信情報を下記のURLにまとめてくれたので、ぜひご利用ください。
こちらに連絡も申請なく無断で「ESOPTRON」「天鵞絨症綺譚」を配信していた不埒な海外の会社も、KENSO国際部の上田達郎氏の重要な働きによって、次々に違法配信できなくなっている。
上田さん、お疲れ様、ありがとう。
閑話休題。
さて、6月の後半、3泊4日で北海道へ行ってきた。
今回の旅の主たるテーマは「アイヌ文化およびアイヌ文学探訪」である。
18年前、家族旅行で阿寒湖近くのアイヌコタンを訪れ、そこで偶然耳にしたアイヌ音楽に惹きつけられた。
また、小さなアイヌ資料館でこれまた偶然、(残念ながら旅程の関係で短時間であったが)目にしたアイヌのシャーマンの映像や「イム」というアイヌ特有の精神疾患、、、、、
それらは、この18年の間に私の中で徐々に発酵していった。
今年になって読んだアイヌ関連の書籍は、自分で買ったもの、レアすぎるために古書価格が高騰してとても買えないのを図書館で借りたものなど数十冊になる。
特に今年の4月以降、私の出勤カバンの中には一冊、必ずアイヌ関係の本が入っていた。
そこで仕入れた知識をさらに立体的なものにしたいと考えていた。
そして、もう一つ、できれば樺太アイヌの弦楽器・トンコリを入手したいとも。
と言うわけで、アイヌの文化や歴史を色々な角度で展示し、体験させてくれる白老町の広大な施設・ウポポイと、天才以外の何物でもない(私は彼女のことを考えるといつもジミ・ヘンドリクスを思い出す)知里幸恵さんの「銀のしずく記念館」がこの旅のメインだった。
後者は100年くらい埋もれた存在だった知里幸恵の偉業と真の姿を残そうとする方々の血と汗と涙の結果、国内外からの寄付だけで設立され、運営されている稀有な記念館。
発起人のひとりだった北大教授・小野有五氏のいとこのオノ・ヨーコさんも多大な寄付を寄せている(記念館にはヨーコさん直筆のメッセージカードも展示されている)。
上記のような多忙さゆえ、残念ながらその二つの施設についてこのブログで詳細に説明する時間は無い(まだまだギターを練習しないといけないのだ!)。
非常に丁寧に私のマニアックな問いに対応してくれ、色々なことを教えてくれた二つの施設へのお礼状の一部を下記に転記するので、興味のある方はお読みください。
そして「アイヌ神謡集」(知里幸恵著・岩波文庫)は絶対に読むべき名著です。
今ネットで調べたら、補訂新版が8月10日に出るみたいなんで、そちらが良いかもしれません。
知里幸恵さんについての関連本は10冊くらい読んだが、
「ピリカチカッポ・知里幸恵とアイヌ神謡集」(石村博子著・岩波書店)
が一番面白かった。
特に、幸恵さんの死までの数ヶ月の心理描写は、いささか感情移入が強い部分もあるように感じるが(そういう部分が今まで読んだ関連本には希薄だったのでそう感じるだけで、それがこの本の魅力にもなっている)今まで「知里幸恵遺稿集」などで読んだ彼女の
日記や覚書ノートの記述が有機的に繋がって、まるで小説を読んでいるかのように、その世界に入り込むことができた。
彼女を発掘し世に出した恩人(もちろん恩人であることは間違いないことではあるが)である金田一京助のいかにも学者らしい~つまりアイヌ語の研究に大いに役立つ人材として幸恵を大切にしていた~クールな面についても細かく文献(当時の婦人雑誌の小さな記事まで!)や手紙にあたっていて、「ふ~~ん、そうだったんだ~」と納得させられた。
アイヌの受けた差別について、和人がいかに彼らを追い込み搾取してきたかについても分かりやすく触れられている。日清・日露戦争の軍需によって巨大財閥を作り、のちに「帝国劇場」「帝国ホテル」などを設立した大倉喜八郎という人物がアイヌに対して行った血も涙も無い所業については、他の本で読んだことがなく興味深かった。
他にも、著者の義憤と反骨精神を伺い知ることができる箇所が多く、読んでいて気持ちが熱くなった。
「ピリカチカッポ~」とは趣を異にする定番本(どうやらそうらしい。私も知里幸恵研究者では無いので、あくまで私自身が読んだ印象ね)、「知里幸恵・十七歳のウエペケレ」(藤本英夫著・草風館)も必読だろう。こちらは事実を丹念に積み重ねた静かな迫力がある。
アイヌの歴史については、これこそ研究者のサイトや上記二冊巻末の参考文献を参考に読んでみるのが良いと思うが、私が字も大きくて内容も(教育指導の手引きのため)分かりやすいので18年前からずっと手元においてあるのは「アイヌ民族の歴史と文化」(田端宏・桑原真人監修・山川出版社)だ。
では、写真二枚にの後に、今回訪れた施設へのメールをご紹介する。
ーウポポイへのメールー
ウポポイ・スタッフの皆様へ
私は6月29日、30日と貴施設を訪れました横浜在住の清水義央と申します。
本日は、一言お礼を述べたくメールした次第です。
貴施設の展示や芸能は楽しく興味深いものばかりでした。
また、スタッフの皆様の丁寧で親切な対応にもとても感謝しています。
youtubeで見た、貴施設を何十回も訪れている少年の気持ちが今は分かります。
私どもも年間パスポートを購入しましたので、、、横浜から白老は若干遠いですが。
特に、私のいささか無理なオファーに誠実に対応してくださり、
ご自身の貴重なお時間を使って様々な文献について教えてくださった学術員の●○様には深く感謝します。
教えていただいた文献やweb siteを気長にあたってみます。
ライブラリーの司書の方の細やかな対応にも感謝です。
心残りがあるとすれば(心残りはライブラリーの本をもっと読みたかったなど、たくさんあるのですが)6月30日の11:00に伝統的コタンで行われた「芸能体験ウポポアキロ」です。
まず、11:30からの「口承文芸実演」の時間が迫っていたため、「ウポポアキロ」を演じ、教えてくださった女性に、きちんとお礼を申し述べることができなかったことです。
もし、どなたかお分かりになるようでしたら、清水がお礼を言っていたと伝えていただければ幸いに存じます。
18年くらい前、阿寒湖の方のアイヌコタンで偶然出会った安東ウメ子さんの音楽に魅了されてきた私にとって輪唱(ウコウク?)に参加できたのは本当に貴重な体験となりました。
もっと時間があったら、演者の方に音楽的な質問をしてみたかったです。
ミュージアムショップで、念願のトンコリも購入できとても嬉しいです。
体験学習館の「楽器演奏鑑賞」時に見せていただいた西平ウメさんのテキスト(CD、DVD付き)はこれからネットなどでじっくり探すとして、とりあえず「富田 友子著・西平ウメ伝承・トンコリ楽曲集と演奏法」
をネットで購入しました。
体験学習館で私のする色々な質問に対し、大切な(ご自分の教科書である?)西平ウメさんのテキストを貸してくださって、分かりやすく回答してくれた女性にも感謝します。
トンコリの“おおらかな”チューニングの仕方にアイヌ文化を少しだけ感じ取ることができました。
バチェラー八重子さんらの特別展示も素晴らしかった。
特に違星北斗さんの生の原稿からは恐ろしいほどの迫力を感じました。
7月2日に登別の「銀のしずく記念館」を訪れる予定になっていた私どもにとって、この特別展示は学びの多い内容でした。
それ以外にも、今回の度重なる私からのメールに対して丁寧に回答してくださったことにも感謝しています。
末筆になりましたが、
貴施設がますます発展していかれることを祈っています。
いつの日か、再訪したいと思っています。
ー「銀のしずく記念館」へのメールその1ー
銀のしずく記念館・担当者様、
本日7/2、貴記念館に伺いました横浜市在住の清水義央と申します。
本日は、丁寧なご説明の上に、DVDも視聴させていただきありがとうございました。
その上、お茶までご馳走になり感謝です。
展示内容も素晴らしく、帰りの飛行機の中、電子書籍で幸恵さんの日記を読みながら、感慨に浸っておりました。
さて、私が
を購入したのは下記のサイトです。
出版元の「草風館」を検索した際、このサイトがヒットしたように記憶しています。
私はちょうど1ヶ月前に注文しました。
何かの参考になれば幸いに存じます。
それでは失礼いたします。
ー「銀のしずく記念館」へのメールその2ー
銀のしずく記念館・担当者様、昨日、貴記念館に伺った清水義央です。
私がCDを購入したサイトのURLが分かりましたので、
お知らせします。
https:/(筆者割愛)
先のメールにも書きましたが、貴記念館を訪れて本当によかったと感じています。
私、18年くらい前に阿寒湖近くのアイヌコタンを訪れ、そこで偶然、安東ウメ子さんの存在を知って以来、アイヌ文化には興味を持っていました。
今回の旅は、ウポポイに行くことと、トンコリを購入し、できれば基本的な演奏法を教えていただくことでした。
(因みに私はギタリストです)
旅程を検討する過程で、貴記念館の存在を知り、是非伺いたいと思いました。
ウポポイでは、「アイヌ文学の近代」という特別展示をやっており、バチラー八重子さん他の人生や作品にも触れることができ、その上で貴記念館で改めて知里幸恵さんの貴重な資料を見ることができたので、自分の中で知里幸恵さんのみならず、アイヌ文化そのものが立体的に感じられました。
時間があれば、貴記念館に1週間くらい通って、様々な映像や文献を拝読したいくらいでした。
長くなってしまいましたが、
今回は本当にありがとうございました。
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最後に、今回の旅程を組む上で大変に貴重な情報をくださった“列車時間を調べるのは私のライフワーク”という友人夫妻に向けた私信を一部編集してご紹介しよう。
F様。
今回ウポポイを訪れる目的の一つは、秘蔵映像を見ることでした。
18年前、阿寒湖畔の施設の映像ライブラリーで本当に短時間見たシャーマンの映像をじっくりみたい、
イムというアイヌ独特の精神疾患の映像や熊送り(熊祭)のリアルな映像を見たい、、、というのがありました。
それについて、事前にウポポイのスタッフと何度もメールのやりとりをしましたが、まあこれはよくあることで、現地のスタッフは当たり障りのない対応。
私がメールのやりとりを見せても暖簾に腕押しな感じだったので、
学芸員に会わせて欲しいと強く言いました。
変人すれすれ(というよりウポポイ・スタッフにとっては変人そのものだったかも)の熱意が功を奏し、(しかもミュージアム・ショップで買ったばかりのトンコリを片手に下げている珍しい爺さん)博物館の展示を監修している学芸員が出て来てくれました。
私とウポポイとの複数回にわたるメールの記録を見せて「そちらからのメールにこう書いてあるじゃないか」と懇願したら「動画については、研究目的ならそれを記入した正規の申請書を出していただかないと見せることはできない。でも、文献であれば
お時間をいただければ、私が用意するので、ライブラリーで待っていてください」と言われました。
一時間くらい他の展示を見て、ライブラリーコーナで待っていたところ、上の学芸員が分厚い本や大型の本を10冊くらい抱えてご登場!
「私、アイヌについて話し出したらとまらないので、もうこのへんでよいというところでストップをかけてくださいね」とおっしゃり、、、、、、
私に、3~40分つきっきりでアイヌ文化について教えてくれ、見るべきサイトや読むべき文献まで、詳細かつ丁寧に記載したメモをくださいました。
羽田に帰る日の知里幸恵・銀のしずく記念館もすごくよかったです。
トンコリも持っていたし、あれこれ質問したのでスタッフに「アイヌについて研究されている方ですか?」と言われました。
記念館で、室蘭本線の乗車時刻のリミットまで見て、泣く泣く途中で記念館を後にした映像を帰宅してすぐに探しました。
https://www.youtube.com/watch?v=NBR3zViANPo
https://www.dailymotion.com/video/x40ndtr
Fさんは、100分de名著の知里幸恵さんのシリーズはご覧になったんでしたっけ?
いやあ、あの人は本当に天才。
今回、展示を見て驚愕しました。
アイヌの口承文学もあの人がいなかったら消滅していたかもしれない。
ロックで言えば、ジミ・ヘンドリクスとかジョン・レノンのような人かもしれません。